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【ネタバレ注意】週刊少年ジャンプを中心に、ふれた作品の感想をたくわえるブログ。

夜は短し歩けよ乙女

森見登美彦、2006年、KADOKAWA
積んでいたこの本を読み終え、ようやく映画を観る権利を手にした気持ちがしています。

視点が切り替わる際のシーンの繋ぎ方があまりになめらかで惚れ惚れする。 この本を読んでいて一番感じたのはそのこと。 頭の中の映像がクロスフェードで綺麗に切り替わるよう。

群像劇といえば数々の視点が入り混じるイメージだったので、主人公ともう一つ別の視点があるだけでも成立するのだなと感心した。

地名がたくさん出てくるので地図で調べながら読んでいた。 銀閣寺って京都大学から徒歩20分の距離にあるんですね。

数々の小ネタが後で回収される。こういうのは伏線とはまた違うと思うのだけど、なんと呼べばいいんだろう。 緋鯉のぬいぐるみが東堂さんへのお見舞いに繋がったのには驚いた。

まさか最終章にして自身の恋心に疑問が投げかけられるとは思わなかった。世の風潮に流されているだけなのではと。 二の足を踏んでいるだけと言えばそうなんだが、恋心はそういうものだと受け止めていた。
振り返ってみると何だかんだで“私”は、“彼女”と大きなイベントを共にしてきた。 最後の2人の近づきは素敵だなあ。穏やかなれど着実な進展。

今回の“私”は『四畳半神話体系』の“私”と語り口や理屈っぽいところが似ているが、同一人物だとは感じないから不思議。 この“私”の方が若干軟弱者っぽくて、あまりひねくれてもいないかな。

黒髪の乙女に対しては、こんないい子が現実にもいたらいいなという気持ちになった。この純粋さと暗記力に長けた京大生という側面は両立するのだろうか。分からない。でも、どこかに存在する世界ではあってほしい。
“彼女”の語りも“私”と同じく個性があるけれど、それがいい子らしさを全く損なわないから凄い。

樋口さんは謎。