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【ネタバレ注意】週刊少年ジャンプを中心に、ふれた作品の感想をたくわえるブログ。

5 Centimeters per Second: one more side

(原作)新海誠加納新太、(訳)Kristi Fernandez、2019年、VERTICAL
秒速5センチメートル one more side』を原作とする英訳版。 カバーイラストは『化物語』などと同じVOFANさん。

原作を読んだことがあるので、物語についての感想というより、初めて英語で物語を読んだことへの感想が主になる…… と思いきや、読んでから何年も空いていたため(特に後半は)意外と新鮮な感想が出てきました。

On Cherry Blossoms

改めて読んで、明里もかなり貴樹に救われていたことを再認識した。
明里の日記や渡せなかった手紙をもし貴樹に見せていればな。 それで良い関係を育めはすれど、悪いことにはならなかっただろうにともどかしく思う。 一方で、それが何となく分かっていても一歩踏み出せないのが人間関係だよな〜、しょうがないよな〜、という気持ちも湧いてくる。

私立の合格が決まった後に「引っ越すから」は普通にひどいな。 今までは親の立場だと仕方ないかなという気持ちを持っていたけど、明里の気持ちを汲むつもりがまるでないのがしんどい。 せっかく幸運にもおばさんの家から通うという選択肢があるのに。 よく明里は拗らせなかったなと思う。子供のキャパシティを超えていることが今なら分かる。 卒業式の別れ際で話せないのも切ないんだよな〜〜。

貴樹に対する明里の"Huh?"は辞書によると「えっ?」という意味らしいけど、音のイメージからまず「はあ?」が浮かんでしまう。こういう間投詞(?)のニュアンスが全然分からない。
擬音もなかなか馴染めない。「運命の赤い糸」が"red thread of fate"と訳されるのはちょっとかっこいいな。

日本語で「アカリ!」と呼ぶのと英語で"Akari!"と呼ぶのとでは、脳内でのアクセントの位置が違う。前者は「リ」が強くて、後者は"ka"が強いイメージ。実際はどうなんだろう。 同じもののはずなのに不思議。

並列するときは"〇〇, 〇〇, and 〇〇"と書くと習った覚えがあるけど、どうやら"and"は省かれている気がする。

"I can meet Takaki soon"には「もうすぐ貴樹くんに会える」ほど貴樹に対する差し迫った想いは感じない。 主語があるからだろうか。自分への意識が入ることに若干のクールさを感じるのかもしれない。 英語ネイティブが日本語を学ぶと逆に感じたりするんだろうか。

会話文から実際のその会話の様子を想像できていない。 映画のシーンなら思い出せるけど、初見だったら無理だと思う。
英語への馴染みが薄くて場面の想像に割くリソースが足りないのもあるだろうけど、そもそも日本語の小説でもそこまで詳細に想像しているわけではないか。

映画や原作の記憶を頼りにしながらではあるが、少なくとも英語で読み通して再び切なさを感じることはできた。

Cosmonaut

二章は貴樹視点だったか!忘れてた。新海誠著のノベライズが花苗視点か。 ここでも、2人の文通が続いていたら……と思わずにはいられないけど、自然になくなっていくものなんだよなぁ……仕方ないんだ……

貴樹が種子島へ向かうフェリーから見た「桜島」を英語にすると“Cherry Blossom Island”になるの趣深いな。日本語版を読んだときはおそらくスルーしていた。

貴樹ってこんなに「転校生」としての役割をクールに自己認識してたんだっけ。
注目を集めることを恐れるな。その注目を楽しみすぎないように。 目立ってはいけないが息を殺してもいけない。自分が無害であることをうまく示さなければならない。迎え入れる側も恐れていることを理解せよ。
あ~、明里と一緒に冷やかされた経験が大きかったのか。
花苗に対する第一印象も冷たい。

あれ?!貴樹って種子島の頃からタバコ吸ってたんだっけ!?

貴樹が花苗を大事に思ってたのはねえ。事実なんだろうけど、だからといって他に上手くやる道があったとも思えない。
種子島で生まれ育った貴樹はまったく想像できないな。 今の貴樹とは全くの別人になるだろう。真っ直ぐ健やかに育ち、花苗が惹かれるタイプにはなっていなかったと思う。

5 Centimeters per Second

原作を読んでいるはずなのに、明里が真面目な文学部学生だったことは忘れていた。
明里が大学の教授に惚れる展開も忘れていて、衝撃を受けた。おそらく初見時と同じ反応をしてる。 明里を庇いたいが、教授の立場だと厄介な学生だと思うのも当然。

貴樹が何人かの女性と付き合ってうまくいかなかったのは覚えている。
就職先って三鷹なんだ。 会社も大きくはないがブラックとかではなさそう。本人も自分に合った仕事だと思っていて、数年後には社内で頭角を現していた。 なのに同僚に足を引っ張られる。

水野さんは聡明な方だったんですねえ。貴樹と気が合うのもなんとなく分かる。
水野さんが一人で生きてきたのも意外だし、貴樹が片付けできない族になってるのも意外。 貴樹から島育ちの雰囲気を感じられないのは住んでいたのが5年間だけということもあるだろうけど、突き詰めれば「馴染んでなかったから」なんだろうな〜。

明里も就職活動で苦戦。 ここまでの様子だと貴樹はうまく行っていて、むしろ明里の方が悩んでいるように見える。
明里って書店員だったっけ?!(もはや何も覚えてない)

映画の三章では2人を少年少女の延長として見ていたような気もするが、こうやって働く姿や他者との関わり合いを見ると立派な大人になったんだなと感慨深く感じる。

貴樹が水野さんとうまく行っているように見える中ですら最後の一線を引いているというか、最後の一歩を踏み込まないというか。 貴樹が誰かと結婚する未来が見えねえ。エンディング後の彼なら大丈夫だろうか。

水野さんの兄にそんな過去があったの………しかも彼女が中2の頃にか。そりゃ「リセットできること」を羨ましく思うのも無理はない。 この辺りの設定って元々(映画の頃から)あったんだろうか。
親よりも姉妹よりも弟よりも、兄を失うのが一番ダメージが大きい、か。 遺された側の性別は関係なく、姉と兄でも違うというのが興味深い。

貴樹が壊れたきっかけはクソみたいなプロジェクトでした。 上司の対応がまともじゃないのも多分プロジェクト自体がおかしいからという部分もあるんだろうな。
もっと上の人はまだまともな判断を下せる人だった。 貴樹がチームのリーダーに置かれたが、確かまだ20代半ばだよな。
貴樹が壊れたのは9割プロジェクトのせいだと思うが、彼の性格や生き方に由来する部分があることも否定できない。 自分の中にため込む。誤解されることを気にしない。
でもどうすればよかったんだろうね。貴樹の性格が特別間違っているとも思えないし、むしろ本質の部分だろう。 強くあらねばならないという考えを持っている。 貴樹を少年期から追って、こんな風に成長したことにはすごく共感できるんだよ。

えっ、学生のとき車買ってたの!? 維持費とか大変だろうに。 なるほど、車中泊しながら一人旅してたのか。それならまあホテル代とトントンになるか? あ、やっぱり維持費のせいで車を手放してた。

うーん、水野さんが心配から発した申し出に対して「迷惑だよ」みたいな反応はまずいよなぁ。 「愛してる」と言ってほしいというお願いに対しても、ここで場面が切れてるということはストレートに言えなかったんだろう。

貴樹が駄目になった時、弱音を吐けていたら水野さんは助けてくれたと思うけどなー。せめて全てをシャットアウトしなければ。
水野さんの最後のメールの「私たちの心は1センチしか近づかなかった」が英語だと"our heart only grew closer by an inch"になってるのはどうなの??"a centimeter"じゃ通じないんですか?

うっ、明里が貴樹の顔をはっきりと思い出せないのも心にくる。 でも仕方ないんだよ。もう15年近く経っているんだ。そういうものなんだよ。
明里にとっては素敵な出来事として思い出せるけれど、貴樹は忘れたまま欲求に囚われている。 難しい。その欲求はどのタイミングで生まれたんだろう。 種子島に引っ越した後?ロケットを見た時? 転校が影響しているとは思うが、少なくとも岩舟以前ではないはず。
貴樹は必ずしも明里に囚われているわけではなく、あの奇跡のような出来事もしくは時間に囚われている?
あーーーー。明里も、「あの時」2人ともがいつか一緒に桜を見れると信じていたことを覚えている。 それだけで素敵。なんだけど、それが今の貴樹に伝わってくれればな……

ロケットを見て貴樹は立ち止まった。 高校生が何か特別なものを見て、それがきっかけで自分の性質が一つ固定されることは珍しいことではないと思う。
改めて読むとめちゃくちゃ良いメッセージが含まれてることに気付く。目指す先なんて決まっておらず、行くべき場所が分からずとも、躊躇わず進んでいくことが大事。
結局は誰に救われるわけでもなく、自分自身の力で立ち直ったというのが貴樹らしい。

まさか「One more time, One more chance」の英訳版まで見れるとは。 こう訳されるんだ〜という学びがある。 なるほど。「願いが叶う」ことは「miracle」なんだ。

心が一新された貴樹が、花苗は難しいにしても、せめて水野さんには連絡とって謝るなり何なりしてるといいな。 復縁とか関係なく素直に話せるようになっていてほしい。 塾の彼女にはもう一度会いたいと思うんだ。
貴樹の実家は今どこにあるんだろう。まだ種子島なのかそれともまた引っ越したのか。島に越してから10年以上経っているからなあ。 ただ、種子島のままだとしても、学生時代なんかに帰省していた様子すらないんだよな。自分の家さえ帰る場所だと思えていなさそうだった。
こうやって浸れる思い出があることは、それだけで既にもう幸福だよなあ。

3節の頭、いきなり「They were married at the end of winter,」から始まっているけど、それで「They」が誰を指すか分かるものなのかな。 前節で貴樹がすっかり心を取り戻した流れだけ見ると、「そして貴樹と明里が結婚しました。めでたしめでたし」にも思える。

改めて読んでいると、貴樹と明里の視点を織り交ぜているのに実世界では一切2人が交わらないという見せ方は珍しい気がしてきた。ラストの踏切でもすれ違うだけで繋がらず、過去の思い出だけが接点として存在する。

あ〜、最後の時点では明里が吉祥寺の新居に移って、貴樹も渋谷に引っ越したばかりだったのか。 2人とも新生活を始めたばかり。 ということは、その時点で両者とも何か悩みを抱えていたわけでもないのだろう。
踏切ですれ違った後、電車の通過を待つ時間がじっくりと描かれる。 最後に女性が振り返らなくともハッピーエンドであることは理解できるけれど、やっぱりどうしても切なさを感じてしまうな。

最後の手紙は本編に比べてかなり素朴な文章だ。日常の言葉では文学的な表現を使わないからなのか、それとも中学生が書いた文章であることを表現しているのか。
そんな素朴な文章でも、2人が別れを悲しんで想いを伝えようとしているのが見てとれて涙が出てくる。 この手紙を互いに渡せていたら……!

英語のあれこれ

日本語で数十ページ読もうとする時より、英語で2、3ページ読もうとする時の方が気合が要る。 まだまだ慣れが足りない。
読むペースは1時間で5~10ページくらいだろうか。 読破におそらく20〜30時間はかかった。ゲームを1本クリアできるくらい。

適当に数えて1ページ250語程度。大体220ページとすると単純計算で5万5千語。 共通テストの英語が全体で5000~6000語らしいので、およそテスト10回分。
意味の分からない単語やフレーズが1ページに1つくらいの割合なら気軽に読めそう。現状はページにつき10〜20単語ほど調べるのもざら。
文章のレベルは日本語で言うライトノベルや一般小説くらいだろうか。 中高生が読めるレベル?

イディオムが多すぎて覚えられる気がしない。 類語の使い分けもどうやったら身につくのだろうか。 自覚がないだけで日本語においては同じことをしているはずなのだけど。

ときどき単語が斜体になっているけど、それがどういう効果を持っているのか分かってない。
英語では文に一人称が追加されてるのも気になってしまう。特に貴樹は「俺」とか「僕」とか言っているイメージがないから、頭の中で主語"I"の収まりが悪い。

文法知識は、主語と動詞を把握できるくらいは最低限必要だと思う。 パッと分からないときは単語の意味を適当につないで読もうとするが、そればかりでは文章として読むのは難しい。 指示語でもつまずきがち。
ちゃんと読めてるかどうか怪しい部分もあるけれど、それは日本語の本でも本質的には同じなのだから、それを理由に尻込みする必要はないなと思った。

原作と読み比べてみたらもっと英語の理解が深まるんだろうなぁ。

おまけ

原作を読んでから時間が空きすぎたせいで、日本語と英語でどれだけ感じ方が変わるのかという実験としては失敗した感がある。 逆に、加納さんの凄さには改めて気付かされた。新海監督のテイストに本当によく馴染んでいる。

漫画をそのままアニメ化することはできないように、原文を全く同じ形で翻訳することはできないだろう。翻訳によって単語の情報やニュアンスが減ることもあれば、その逆もあるはず。
トータルで読書体験や面白さが変化しないように気を配らないといけないのだと思う。 適切な単語を選ぶために、翻訳家は正しく場面を想像できていなければならない。

AkariをAkaneと誤植していた部分が何箇所かあった。 自分も貴樹と間違って何度も春希と書きそうになったので責められない。